「19世紀頃のアンティークが似合う住まいにしたい」。施主様が求める世界観に対し、辿り着いた答えは「陰翳」だった。
本プロジェクトでは、物件が持つ「明暗」と照明計画により陰翳を表現した。
本物件の特性は2つある。1つ目はLDKの一角がセットバックされ、暗がりが生じていたこと。2つ目は小屋裏収納があったこと。限られた予算の中で、ダイナミックな変化をもたらすために、LDKのみのフルスケルトンに振り切った。
LDKの暗がりを最大限活かし、居場所に応じた必要最低限の灯りを灯すことで、光の美しさを引き立てる。壁で囲われた寝室では、翳りの中でブラケットがほのかな光を帯びる。
小屋裏収納は解体し、目一杯の天井高に象徴的なシャンデリアを配置。切妻型の板張り天井を造作し、一軒家のような設えにした。
手元で行燈を灯すように、必要な場所に必要な光だけを灯す。薄暗がりの中で生まれる「明」と「暗」、両方を楽しむ。光の存在を感じ、陰翳を尊ぶ日本の美意識が息づく住まいが完成した。
BEFORE
窓際の一角がセットバックされた2LDKの物件。
外壁の後退に加え、リビング側にせり出した洋室の壁により、住まいのメインとなる空間が10帖程度と、窮屈な印象だった。
対面キッチンは通路幅に影響を与え、動線にも支障をきたす。
洋室1に小屋裏収納が備えつけられていたが、持ち物の少ないお施主様にとっては管理の手間が増えるだけの不要な空間であった。
現在一人暮らしのお施主様にとって不必要なものを除き、求める暮らしを再構築することが、今回のプロジェクトの要件である。