「人は生まれながらにして自由かつ平等である」
施主様は高校時代に事故に遭い車椅子生活を余儀なくされ、日々不自由と戦っている。引き戸で段差のない賃貸でも洗面台では上体を捻り、換気扇はマジックハンドでスイッチを操作する。社会にはバリアフリーが溢れているが、施主様は自宅ですら自由を感じられない。
施主様の身体的不便を言葉だけで理解するのは難しい。本質的な解決策を提案するため、日常動作をその場で再現してもらい、時には施主が回答を持ち帰りながら丁寧に不自由を洗い出した。
家の象徴は玄関からバルコニーに続く4.5mのスロープ。スロープを短くして居室を確保した図面も提案したが、施主様は「私たちらしい」と現案を採用した。有孔ボードで間仕切って飾る収納とワークスペースを兼ね、将来の子どものために施主自らDIYで黒板塗装も施した。
車椅子のまま使えるようシンク下はオープンに、換気扇スイッチはコンロ下に配した。浴室は1616のベンチ付きUBで、費用を抑え見た目もスタイリッシュに。永住を見据えてリビングのキッズスペースやWICへのベッド追加など柔軟性を残している。+αで提案したルーバー天井はインサートを活用し造作。壁色や床材は夫婦の好みが一致したお気に入りだ。
リノベなら実用性もデザインも自分だけのバリアフリーが叶う。その自由度を再認識したプロジェクトとなった。
BEFORE
本物件は、駅から家の玄関まで平坦、平置き駐車場、求める広さ……厳しい条件をクリアし、開放的なバルコニーまでついた理想の家だった。しかし車椅子で入れない小上がりの和室、車椅子ではドアが閉められないトイレ、屋内外で使い分ける車椅子置き場がないことなど、施主にとっては不便が残る。偶然にも売主も車椅子ユーザーで、手すりを各所に施していたが施主には不要だった為再利用はしなかった。
また躯体へのビス打ちが禁止のため、インサートを活用した造作のルーバー天井でライティングレールを設置したり、室内タイプの給湯器を管理組合交渉の上でベランダに設置し室内の広さを確保したりと、細かな物件特性への対応が求められた。