解体される運命だった旧耐震の混構造建築は施主との出会いで生まれ変わる。
元々の木製扉やサッシのアーチデザイン。そして、細かな装飾がされた木製建具や家具を流用して新しい建具や収納家具を造作したことで、新築では出せない味わいに。手仕事のある仕上げにもこだわり、オイル塗装、タイル張り、CB積み、モルタル等、住空間に深みのある雰囲気と心地よさを生み出している。
薄暗く窮屈だった間取りは、鉄骨造という利点を活かして玄関土間も一体となった約35帖の広々としたLDK空間に変貌。ベランダ部分を一部増築したインナーテラスは新設の植栽庭に面した気持ちの良い場所となっており、玄関ホールから繋がった広い土間空間とともに、LDKをより開放的な空間としている。
また、建物の高寿命化のために外壁と屋上は全面補修を行い防水処理と塗装+断熱改修を行った。天井、床にはグラスウールを充填し、外壁と内壁両方に断熱遮熱塗料、屋上には遮熱塗料。南側の既存アルミサッシは撤去し、アルミ複合樹脂サッシ+LOW-Eガラスに。既存窓には断熱内窓を設置し快適な温熱環境を目指した。
1階の元事務所は賃貸住宅に。既存部分を利用した収益物件をつくり住宅ローン支払いを軽減を狙った。和室の床の間や障・襖も積極的に流用し、年代物の蔵戸を玄関扉とし外壁はモルタルで仕上げ、和と無機質なリノベ空間の融合となっている。
BEFORE
新耐震基準前の鉄骨造2階建て事務所併用住宅。既存図面がなく、外壁がRC造という変則混構造であったために耐震補強はもちろん耐震診断すら難しい建築。しかし、各所に細やかな装飾やデザインがされた手仕事が残るこの住宅にアンティーク家具が好きな施主が惚れ込んだ。
この建築を再評価してみると、2階建てとしてはオーバースペックな大きさの鉄骨部材を使っていることや外壁がRC壁で補強されていること等を総合的に考察し、耐震補強無しでも問題のない構造強度を有していると判断。耐震補強をすることが難しい新耐震基準前の混構造建築を購入しリノベーションするためには、施主の想いと建築士による総合的判断が不可欠だと改めて感じた。おそらく、このような施主と出会わなければ、この建築は解体される運命にあったと思う。
この建築の運命は変わり、新たなバトンが受け渡された。